読み物

12月15日(木)アセンブリーアワー講演会「私と小説の世界(ゲスト:村田沙耶香氏)」レポート

アセンブリーアワー講演会は、京都精華大学の開学した1968年から行われている公開トークイベントで、これまで54年間続けてきました。分野を問わず、時代に残る活動や世界に感動を与える表現をしている人をゲストに迎えています。
 
2022年12月15日(木)は、現実や社会規範を揺るがす作品を発表し、国内外で高く評価されている作家・村田沙耶香さんをゲストに迎え、聞き手を本学マンガ学部教員の三河かおりが務めるかたちでアセンブリーアワー講演会を開催しました。
村田さんは2003年に『授乳』(講談社 / 2010)で群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。2009年に『ギンイロノウタ』(新潮社 / 2013)で野間文芸新人賞、2013年に『しろいろの街の、その骨の体温の』(朝日新聞出版 / 2015)で三島由紀夫賞、2016年に『コンビニ人間』(文藝春秋 / 2016)で芥川龍之介賞を受賞。また、2021年には『信仰』(文藝春秋 / 2022)が米・シャーリイ・ジャクスン賞にノミネートされるなど、村田さんの作品は海を越えて注目を集めています。

私と小説の世界(ゲスト:村田沙耶香氏)」講演会レポート


(左:村田紗耶香さん(ゲスト)、右:三河かおり(聞き手 / 本学教員))
「普通」とは何かを問いかけた『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞した村田さんは、「10人産んだら1人殺せる」という「殺人出産システム」が導入された社会を舞台にした『殺人出産』や、夫婦間のセックスがタブーとなり人工授精が一般化した世界を描いた『消滅世界』など、独自の思考実験を小説に落とし込んだ衝撃作を発表しつづけている作家です。

村田さんが小説を書き始めたのは、小学生のとき。幼少期について「すごく生きづらさを感じている子どもだった」と振り返ります。そんな小学生のころに読み、心に強く響いた作品が、フランスの作家ジュール・ルナールの『にんじん』だったそうです。

「子ども向けの本のなかで描かれるような、両親とはうまくいかないけれど本当は愛されているとか、友だちにいじめられるけれど仲直りするとか、そういうハッピーエンドに傷ついてきた子どもだったんです。でも、『にんじん』では、主人公の少年とお母さんの関係がまったく改善されないまま終わる。そのことにものすごく救われました。そして、この物語を描いた人は自分より深い絶望を抱えているんだと。信頼できる大人が本の向こう側に立っているような感覚がありました」

「人間をつくり、その人間を水槽の中に入れて、そこで起きることを一生懸命書く。そういう実験者のような立場でいたい」と話す村田さん。その村田さんの「水槽」は、いつも読者を驚かせる、常識を逸脱したものばかりです。たとえば、『信仰』に収録された短編「生存」では、「地球温暖化と社会的な不平等の相互関係」をテーマに、65歳の時点で生きている可能性を数値化した“生存率”によって人間の価値がランク付けされた世界で「野人」になることを決める主人公が描かれています。


質疑応答では、村田さんのファンだという学生からの「こうした発想はどこから生まれてくるのか?」という質問に対して、村田さんからはこんな回答が。
「『コンビニ人間』とかを書いていたころ、“縄文時代を生きているもう一人の自分”みたいなことをいつも想像していたんです。縄文時代に、やっぱり集落でいまいち馴染めない自分を。でも、人類が言語を持つ前、もっと動物だった時代ならば、もっとのびのびと生きられたかもしれない。そういう野獣になれる可能性を秘めている肉体というものを、なんとなく感じていて。もうひとつの可能性として“野人の自分”というのが、つねにいるような感覚があるんです。それは自分だけじゃなくて誰の横にももうひとりいるような感覚が最近あるんですね。なので、小説に何度か野人を描いてしまっているんだと思います」


さらに、「先生の考える死とはどういうものか」という質問が寄せられると、村田さんはこんなお話をしてくれました。
「子どものころは、眠る前に空想でつくっているお話のなかでだけは生きていられたけれど、基本的にはずっと死んでいたという感覚があります。人とは違った子どもになるということにものすごく怯えがあって、まわりから浮かないために、排除されないために、自分の言葉ではない言葉しか喋っていなかったんです。それが小説を書き始めたことで、誰の顔色も伺わない言葉というものを取り戻せた。ちょっと青臭すぎて恥ずかしいのですが、『死んでいない』という感覚を初めて得たのは、小説を書いたときだったような気がしています」
 
講演の最後、「京都のこんなに大きな会場でおしゃべりすることは初めてで、本当にお会いできてうれしかったです」とご挨拶くださったメッセージが印象的でした。常識にとらわれず、既存の価値観を揺さぶる物語を紡いできた村田さんの言葉は、日々創作・制作に打ち込む学生たちの大きな刺激となったはずです。
このたびは、貴重なお話の数々をありがとうございました。

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