在学生・卒業生

芸術学部教員 中村裕太がキュレーターを務める展覧会「月ニトハルル」が開催。版画専攻助手の松元 悠が参加します。

芸術学部教員で美術家の中村裕太がキュレーターを務める展覧会「Ginza Curator’s Room #010『月ニトハルル』」が、東京銀座の思文閣銀座で開催されます。

「Ginza Curator’s Room」は、キュレーターを「美術の文脈を紡いでいく重要な存在」として位置づけ、メインに捉える連続企画展です。毎回ゲストキュレーターを迎え、その目を通して新たな魅力と価値が吹き込んだ「部屋」を展観することができます。

今回のゲストキュレーターである中村は、幕末から明治の歌人 大田垣蓮月の興味深い逸話から着想を得て本展覧会を構成しました。中村は、近代の工芸文化における模倣に注目しつつ、版画家で法廷画も手掛ける松元悠の作品と、自身の作品を通して、現代における模倣のありようを考え展開します。ぜひご覧ください。



キュレーター ステートメント

いにしへを 月にとはるる 心地して ふしめがちにも なる今宵かな
大田垣蓮月
 
幕末から明治の歌人・大田垣蓮月(1791-1875)は、生活の糧として手づくねした器に自らの歌を釘で彫り込んだ陶器を拵えていた。京都の土産物として好事家からも好まれていたため、当時から贋作も多く出回っていた。
 
ある日、その模倣を試みていた商人が蓮月宅を訪ね、「どうしても文字がうまく書けません」と打ち明けると、「お安いこと」と商人が持参した器に自らの歌を彫り、おまけに手本として自らの陶器を手渡したという。
 
柳宗悦が「模倣について」のなかで取り上げたこの逸話は、あながち作り話ともいえない*¹。近年の発掘調査で、蓮月が聖護院村に居を構えたと推定される場所から蓮月焼が掘り起こされているが、そのなかに玉木良斉なる人物による蓮月焼を模倣した陶器も紛れている*²。蓮月の手解きを受け、自らの歌を彫り込んだとされる良斉の陶器は、贋作とは一線を画すが、同様に蓮月焼にみられる素朴な趣きが乏しい。
 
では、どうしたら蓮月の陶器作りを正しく模倣することができるのだろうか。柳は、蓮月の逸話の前段で、「真似したものは元のものより大概悪い。それは結果で受取って、原因で受け取ってくれる人が少いからだ」という濱田庄司の言葉を引用している。
 
その言葉は、松元悠の仕事を見ていても感じる。法廷画家でもある松元は、事件の結果としての判決ではなく、その犯行に至った原因に関心を向けている。そして、一人の観察者としてその事件現場を訪ね、そこで見聞きした断片的な体験をリトグラフ(石版画)に刷り出していく。他方で、近代の工芸文化に関心を向ける中村裕太は、結果として残された物品や文献資料を寄せ集め、もう目には見えない原因を想像しながら土をこねる。そして、それらの小さなオブジェを手遊ぶことで、その当時の光景を浮かび上がらせていく。
 
蓮月から模倣について問われた心持ちがする二人は、いくつかの出来事(発掘された玉木良斉の模倣陶器、民藝同人による模倣についての座談会、八木一夫による二番師と石黒宗麿論、版画の贋作事件)を紐づけて検証していくことで、伏し目がちにならない今日の正しい模倣を会場でお見せしていく。
 
註1:柳宗悦「模倣について」『宗教随想』1960年
註2:千葉豊「蓮月焼を模倣した陶器について」『京都大学構内遺跡調査研究年報』2018年

  • 日程

    2024年11月29日(金)~12月13日(金)
    日曜休廊

  • 時間

    10:00~18:00

  • 会場

    〒104-0061 東京都中央区銀座5丁目3番12号 壹番館ビルディング
  • 出演・出展者

    キュレーター:中村裕太(美術家/芸術学部教員)
    アーティスト:中村裕太(美術家/芸術学部教員)、松元 悠(版画家、美術家/芸術学部版画専攻助手/芸術学部版画コース 卒業)
    大田垣蓮月、石黒宗麿、河井寬次郎、濱田庄司、バーナード・リーチ、八木一夫

  • 予約

    不要

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