2019年4月1日(月)、「2019年度京都精華大学・大学院入学式」を挙行しました。
学部894名、大学院70名の計964名が入学し、ウスビ・サコ学長は「京都精華大学にようこそいらっしゃいました。この大学生活で、表現者として失敗をおそれずに、他者との関わり合いを学び、自己を確立してほしい」と入学生に歓迎の言葉を述べました。
新入生を代表して、ポピュラーカルチャー学部ファッションコースに入学した藤原 志帆さんが、「この4年間が有意義になるよう、日々の過ごし方を大切にしたい」と挨拶しました。
あわせて開催された「学長表彰 表彰式」では、学長賞として「京都精華大学伝統産業イノベーションセンター特別ゼミ 工藝部」、マンガ学部名誉教授篠原ユキオ氏、卒業生功労賞として、人文学部卒業生で漫画家の仲谷鳰氏が表彰されました。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから京都精華大学で出会う友人や教職員と、ともに学びあい、有意義で楽しい学生生活を過ごしてください。
2019年度京都精華大学 入学式学長挨拶
Aw niche--Aw Bissilah--Aw Bora aw Kasso--Aw nana aw kasso
京都精華大学、学長のウスビ・サコです。
ご列席の教職員、関係者のみなさまとともに、新入生のみなさんのご入学を心よりお祝い申し上げます。保護者のみなさまにも、お祝いを申しあげます。
京都精華大学は、みなさんの入学を歓迎して、「LOVE」というタイトルの冊子を配布しています。そこには、詩人の谷川俊太郎氏の詩のほか、教職員からみなさんにあてたメッセージが記載されていますので、是非、読んでみてください。
本日、京都精華大学には14名の編入生を含む894名、大学院には70名が入学することになりました。あらたに京都精華大学の仲間に加わった、この964名のうち、300名以上、つまり約3割が日本国外から来られています。みなさん、京都精華大学へようこそいらっしゃいました。
You are very welcome to Kyoto Seika University!
京都精華大学は昨年度で創立50周年を迎え、今年度はみなさんと一緒に次の半世紀を迎えることになります。みなさんは京都精華大学の新しい50年にとって1期生ということになります。
昨年度、この50周年に合わせて、京都精華大学は将来に向けた「VISION SEIKA2024」と「京都精華大学グローバルビジョン」を発表しました。「VISION SEIKA2024」では、京都精華大学の理念と使命、そして歴史的蓄積を踏まえて、リベラルアーツの大学、表現の大学、グローバルな大学という、3つの方針が立体的に結合した大学像を構想し、その実現に向けた基軸と戦略を立てました。また、「京都精華大学グローバルビジョン」では、世界中の人びとが集まるなかで、多様性を尊重した交流や、学問を通じて、世界を変えていく教育を行うために、進むべき方向性を定めました。
50周年記念事業の一環として、アフリカ初のノーベル文学賞受賞者、ナイジェリアの詩人ウォーレ・ショインカ氏を、お招きしました。基調講演のなかでショインカ氏は、「教育とは単なる知識の蓄積ではなく、好奇心をベースにしたテンプレートが自分の中に培えるかどうか、新しい秩序や新しいものに出会ったときに、知的な反応ができる素地を自分の中につくれるかどうかが重要だ」と語りました。また、世界人権宣言第26条の教育を受ける権利、とくに3項の「親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する」という部分を強調し、アフリカ大陸の多くの地域で教育に危険が及んでいる現状を警告しました。ショインカ氏との対談を通して、若者が自由を獲得するために教育がどれほど重要なのか、そして京都精華大学は何を追求していくべきかを、改めて確認することができました。
また、京都精華大学では、外部の有識者を招いて、お話しをしていただくアセンブリーアワー講演会という公開トークイベントを行っています。1月に開催した記念すべき第500回のテーマは「人間的差別の問題」を取り上げました。これは、1968年4月の第1回で初代学長の岡本清一が提示したテーマについて応答しようという試みで、京都大学総長の山極壽一氏と私が対談しました。
対談では人間社会における差別の構造、動物集団ではどのような差別が見られるのか、そもそも差別はどこから来たのか、近代以降の資本主義としての現象なのか、といった仮説を話し合いました。人間的差別とは、第三者の存在と、フィクションによる優劣の評価から生まれたかもしれません。また、インターネットやAIの出現によって、人間的なつながりは更に複雑化し、情報によって集団が形成され、個人や集団のイメージが勝手に作られる時代になっているとの指摘もありました。
この対談の中で山極氏は、ヘブライ大学で歴史学を教えているユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書、『ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来』のなかで、21世紀に人間が求めるものとして挙げられた不死の身体、神の手、幸福の3つを紹介しました。ハラリ氏は、『サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福』、『21世紀のための21つの教訓』等の著作を出版し、世界40カ国以上でベストセラーになっています。これら一連の著書のなかで、ハラリ氏は、現在に至るまでの人類の歴史を通覧し、文明の構造を細かく解説しながら、リベラルアーツを学ぶことの重要さを示唆されています。みなさんも是非読んでみてください。
山極氏との対談で一番印象に残ったのは、人間がフィクションによってこの「世界」を作り出し、そのフィクションによって人間社会を支配しているということです。人間が人間としてどう在るべきか、それも差別の問題と一緒に考えていかなければなりません。そのためにも京都精華大学の教育内容である芸術や人文学、人間のあり方を抽象的に捉える学問の重要性が再確認できました。
このいずれのイベントにも共通しているのは、ホモ・サピエンスとしての新人類=人間の社会的な課題や集団のあり方であり、それは本学の初代学長である岡本清一が、学長就任にあたって提示した「人間尊重」「自由自治」を基盤とする「教育の基本方針に関する覚書」に呼応するものです。京都精華大学は、世界人権宣言に立脚し、人間を大切にすることを基本方針とした教育に取り組んでいます。本学は、これからの未来における新しい人類史の展開に対して責任を負い、日本と世界に尽くそうとする人間の形成を建学理念として掲げています。
京都精華大学が開学された1960年代は、日本だけでなくアジアやアフリカでも「自由」と「人間尊重」のための様々な運動が起こり、一定の成果を収めました。しかし昨今、近代の時代が作り出した国民国家が、グローバル化によってその限界をあらわにしており、そこにかつて共生していた民族間の葛藤が発生しています。それに対して、先述の対談でショインカ氏は、「今日、世界の一極化が進むことによって、人間の価値を認めない風潮がもたらされている」と指摘しておられました。こうしたマクロな均質化・一極化とミクロな分裂・対立の時代にあると述べました。私の出身国であるマリ共和国でも、つい先月、民族間の対立により、特定の民族が別の民族の村を焼き打ちし、150人以上が殺害される事態が起きました。殺し合いがあった民族同士は長年共存し、互いの価値観を尊重してきたはずです。
グローバル化は、因襲的な束縛から個が解放される一方で、地域紛争や民族対立が顕在化し、経済格差が広がり、人びとに不安や分断をもたらしています。また、国際社会の秩序の乱れ、地域格差の拡大などの課題も顕著になり、悪化した生活環境で教育が受けられない子どもも増加しています。新入生のみなさんには、これらの問題を自分たちが生きている社会の課題として捉えていただきたいと思います。京都精華大学は、世界的に持続可能な社会が求められる現代において、「学問」と「芸術」の力によって人間社会と世界の未来を創造する表現の大学をめざしています。京都精華大学におけるグローバル化教育は、自国の文化と向き合い、自分の足元をしっかり見つめた上で、他者との共存及び共生社会の実現を図ることです。これは、「誰一人取り残さない」というSDGs(持続可能な開発目標) の実現に尽力するとともに、教育過程でも意識をすることにしたいと思います。
今日、グローバル化にはもう一つの側面があります。テクノロジーの進歩との深い関わりです。テクノロジーの進歩によって国や地域を超え、互いが互いの現実について、リアルタイムで話し合えるチャンスが与えられます。世界の若者たちが地球の未来を一緒に考えていくプラットフォームが多様にできており、世界を変革する希望も生まれました。この希望を現実にするためには、他者との違いを認識し、尊重する姿勢を学び、自分の価値観を形成することが求められています。京都精華大学は、2016年にダイバーシティ推進宣言を発表し、翌年にはダイバーシティ推進センターを設立しました。そして2018年4月、ダイバーシティ推進の明確なコンセプトや具体的な推進内容を盛り込んだ、新たな宣言文と活動方針を発表しました。
京都精華大学がめざすのは「地球市民」としての人間形成であり、主体性と協調性を備え持つ人間の育成です。新入生のみなさんにおかれましても、世の変化に柔軟に適応できる、知的なたくましさを身につけていただきたいと思います。多様化し国際化する京都精華大学のキャンパスが、みなさんにとって世界と交流する最初の拠点になることを願っています。
大学という場は、そこに身を置くことによって、自由を体現しながら、他者との関わり合いを学び、自己を確立させるところです。本日、みなさんの大学生活は、「私は何者か?」という問いから始まっています。かつて私が中国の大学で学び、日本の大学院で学びながら、一番強く感じたのはマリ人としての自分との出会いです。他者を通してこそ発見できる自分、他者を通して見えてくる自分、他者と協働して初めて気づく自分の力や能力は、何よりも大切です
これからの大学生活において、みなさんは表現者として試行錯誤をしますが、失敗を恐れないでほしい。大学生活の中で、すべてがうまくいくはずはありません。そして一つの道でうまくいかないことがあったとしても、そのときには他の道を選択できる人間に成長して欲しい。それでも解決の道筋が見えないときには、周りの仲間や人々に助言を乞うこともしてみてください。ここにいる教職員一同が、みなさんと向き合いたいと思います。
最後になりますが、南アフリカの反アパルトヘイト運動を主導したネルソン・マンデラ氏の教育に関することばを贈ります。
——「教育とは世界を変革するために用いることのできる最も強力な武器である」。
Education is the most powerful weapon, which you can use to change the world!
Let's make real change happen!
以上、私の式辞とさせていただきます。
ご入学ありがとうございます。
AWNICHE
2019年4月1日
京都精華大学・学長
ウスビ・サコ