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京都精華大学 広報誌『木野通信 第81号』を発行しました

京都精華大学 広報誌『木野通信 第81号』を発行しました。
 『木野通信』は、本学の卒業生や在学生の活動、教員の研究、大学ニュースなどを紹介する広報誌です。
年2回発行しており、卒業生や保護者のみなさまを中心に広く配布しています。
 
今号では特集として、「VUCA時代を生き抜く人を育てるキャリア教育」をテーマに、これまでのキャリア教育で重視してきた、みずから道をつくり出し、創造的に生きる力を伸ばすキャリア教育について、新しく開設した拠点「キャリアパーク」とあわせて紹介しています。その他研究報告や、本学が主催するイベントレポート、教員から卒業生に向けたメッセージ、ニュースなども掲載しております。

また表紙は、デザイン学部建築学科卒業生 郡司亜実さんの作品「分解と融合」が飾っています。同作品は「2022年度京都精華大学展(卒業制作展)」で理事長賞を受賞しました。
 

木野通信 第81号

特集「VUCA時代を生き抜く京都精華大学のキャリア教育」

京都精華大学のこれまでのキャリア教育の取り組みや、将来予測が困難な時代における支援のあり方をお伝えします。
 
● イベントレポート
・アセンブリーアワー講演会(講師:三宅 唱氏、末永幸歩氏、鈴木千佳子氏、斎藤真理子氏、川内倫子氏)
・京都国際マンガミュージアム企画展「村上もとか展「JIN-仁-」、「龍-RON-」、僕は時代と人を描いてきた。」
 ほか

木野通信 第81号
「VUCA時代を生き抜く人を育てるキャリア教育」

先進的なキャリア施設・キャリアパークが誕生

京都精華大学では、表現の力を社会の変革に資するための教育・研究活動を行っています。これまでのキャリア教育で重視してきたのは、みずから道をつくり出し、創造的に生きるための力を伸ばすこと。変化のスピードが速く、将来予測が難しいとされる「VUCA時代」では、より一層そうした力が求められています。一方でその不確実性ゆえに、将来に強い不安感を覚え踏み出せずにいる学生たちも少なくありません。そんななか、本学は2023年10月、明窓館1Fに「キャリアパーク」を開設しました。今回はパークの全容とあわせて、本学の取り組みと今後の課題をお伝えします。

明窓館1Fカフェ横にキャリアパークがオープン

明るい陽が差し込みカフェに隣りあう開放的な空間は、まるでおしゃれなセレクト書店のよう。点々と置かれた本棚には就職活動や仕事選びに役立つ1,500冊もの本が並び、中央の掲示板ではカラフルな貼り紙と手書きの紹介文が踊っています。
〈大注目のアニメスタジオ「神風動画」の求人キタ——〉〈全世界累計8,500万DL〝にゃんこ大戦争〞のゲーム会社が募集中!〉〈おもちゃ・ドライヤー・歯ブラシまで! プロダクトデザイナー極めるならココ!〉
 
「クリエイティブ」「ソーシャル・公共」「総合・一般」に色分けされたジョブズボード
名づけて「ジョブズボード」。大学に来た企業の求人票を職員がピックアップし、独自にキャッチコピーをつけて紹介しています。これは、求人票に記された基本情報だけではわからない会社のイメージや仕事内容を学生に親しみやすく伝えるためです。
同じ情報はメールでも配信していますが、このキャリアパークがオープンしたのを機に、あえて紙と手書きのアナログな見せ方にこだわりました。キャリア支援チームリーダーの中出祥二は次のように説明します。
「手書き文字には、やさしく語りかけるような人間味があって記憶に残りやすい。企業情報を自分ごととして伝えるねらいがあります。就職や進路の話はどうしてもプレッシャーに感じる学生が多いので、ふだんから気軽に立ち寄って、自由に利用できる場所をつくりたいというのが、キャリアパーク開設のコンセプトなんです」
 
棚の本も通常の就活情報やマニュアルだけでなく、学生が思わず手に取りたくなるような内容をセレクトしています。コミュニケーション技術や自己啓発の本。最新のクリエイティブツールの使い方、文系分野の学生がデザイン職に就く方法。身体や発達障害のある人のための多様な働き方。そして、自分の作品や表現をビジネスにつなげるマーケティングやSNSの活用術、社会に求められる課題解決の手法……。
また、その奥にはポートフォリオの閲覧コーナーも設けられました。クリエイティブ職で活躍する卒業生たちが、自分が実際に就活で使用した作品集を提供してくれています。
 
  • ライブラリーの可動式の本棚はオリジナルデザイン
  • いつでも閲覧可能な先輩のポートフォリオコーナー
「クリエイティブ職への就職はポートフォリオで決まるといわれるぐらい重要ですが、業界によって求められる作品や表現内容は異なります。グラフィックデザインなら文字や造本技術が必要ですが、近年人気のゲームやアニメーションはとにかく画力・造形力重視。内定を得た先輩たちの作品集を見て、そんな傾向をつかんでもらえたら」
本や資料だけでなく、人と出会う場所でもあります。さまざまな業界でいきいきと働く卒業生を招き、就活の経験や仕事の楽しさを語ってもらう講演やセミナー、相談会などが定期的に開かれています。さらに詳しく話を聞きたい人には予約制の個別相談で、キャリア支援チームの職員がじっくり話を聞いてアドバイスします。
 

好きと得意を大事に就職率アップ

就職をめぐる大学生や保護者の意識は、時代や経済情勢にともなって大きく変化しています。かつては、「卒業後すぐに就職しなくてもよい」「就職よりも自分らしく自由に生きる」という人も多かった本学も例外ではありません。リーマン・ショックの2008年あたりを境に就職重視の声が強まり、2011年からは正規科目として教員が担当するキャリア教育と、就職相談や情報提供など職員がサポートするキャリア支援を二本柱に、両者が密接に連携しながら、就職率の向上に取り組んできました。
キャリアに関する各種手続きや本格的な進路相談にも対応するキャリア支援チーム
その結果、2013年には62.8%だった卒業時の就職率は2023年に93.6%と、30ポイント以上アップ。同期間の全国の大学平均が4ポイント弱の増加なので、本学はとりわけ大きく伸びていることがわかります。
しかも、ただ単に就職率を上げただけではありません。「好きと得意を大事にする」という方針のもと、就職した後の満足度を高めることを重視してきました。
「ぜひ、気軽にキャリアパークに遊びにきてください」(中出)
「文化や表現を学んだ学生が多いので、希望者にはできるだけクリエイティブ系の仕事に就かせてあげたい。しかし人気の高いゲームやアニメ業界に誰もが入れるわけではなく、周りを見れば圧倒的にレベルの高い人もいる。それで自信喪失して、就職への意欲を失くしてしまう学生も少なくありません。そこで、〈名詞の好きから動詞の好きへ〉ということを呼びかけています」

〈名詞の好き・動詞の好き〉について中出はこんなふうに説明します。
「アニメやゲームが好き。だから制作者になる、というのが〈名詞の好き〉です。でも、それだけだと人気業界に偏り、仕事の選択肢が限定されてしまいます。また、受け手として好きであることと、仕事にすることにはズレがあるかもしれない。それを、アニメ作品やゲームの歴史について『リサーチする』のが得意とか、作品を解説・紹介して『人を喜ばせる』のが好きだという〈動詞の好き〉へと視点を広げれば、専門誌の編集者や宣伝広報なども選択肢になる。そうやって一歩一歩、目標に近づいていった卒業生も多いですよ」
 
好きなことを出発点にしながらも、ほんの少し視点を変えたり、別のアプローチを考えたりすることで、自分の可能性と進路選択の幅が広がっていきます。新卒で一括採用された後は終身雇用が普通だった時代とは違い、転職や移籍、独立を重ねてステップアップしていくキャリアデザインも、今は当たり前となっています。一度の挫折で自信喪失したり、諦めたりしなくていい。少し遠回りに思えても、着実に目標へと近づく方法もある。自身の可能性を早々に諦めることのないよう、支援のなかでくり返し学生たちに伝えています。
 

イメージと自信を与える卒業生の講義

とはいえ、将来就きたい仕事や働くことへのイメージをはっきりと持っている学生ばかりではありません。
就職はしたいけどなかなか最初の一歩が踏み出せない。自分に自信が持てず、やりたいことが見つからない——そんな理由で就活に消極的になってしまう学生も数多くいるのが今の時代です。彼らにさまざまな仕事への興味を持ってもらい、自分の可能性に気づかせるのもキャリア教育・支援の重要な役割だと考えています。
その際、大きなきっかけとなるのが、卒業生の話です。同じ大学・学部で学んだ先輩の経験談やアドバイスは、学生にとって最も身近でリアルに響きます。その歩みがロールモデルとなるため、本学のキャリア教育科目では、卒業生の話を聞く講義を数多く組んでいます。
 
たとえば、1年生全員が必修の「キャリア1」。毎回2人のゲストを招き、就職活動の経験やこれまでの歩み、仕事への考え方ややりがいを語ってもらいます。
誰もが知る有名企業や大企業でバリバリ働く人、最先端の業界や職種でユニークな仕事をする人、クリエイターやアーティストとして活躍する人、ベンチャー企業やNPOを起業して大きな成功を収めた人……。職業も、そこに至る経緯も一つとして同じものはなく、どの人の話も魅力的です。生きた言葉に接することで、学生たちは働く楽しさを知り、就職や仕事を自分ごととして考えるようになります。
「職業研究」の講義では、ゲームデザイナー、アニメーター、イラストレーター、IT企業のプランナーやアートディレクター、美術教員など多種多様な職業の卒業生が登場し、仕事の実情を中心に就職に必要なアドバイスも伝授します。
 
また、自分を表現して人に伝える力も、就活や仕事をするうえで重要です。「コミュニケーション実践演習」では、大手IT企業も社員研修に導入している「インプロ」という即興演劇を通じて、学生の表現力やコミュニケーション力を高めます。この演習を受けた後、人前に出て発表することが怖くなくなったという学生も多くいます。
 

正解主義を脱し、スペシャルな人材に

著名人の印象的な言葉が随所に散りばめられている
現代は、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字から「VUCA時代」といわれます。国際社会では戦争やパンデミックなど予測不能な変化が次々と起こり、テクノロジーの世界では絵画や文章を自動生成するAIなどが急速な進化を遂げています。それにともなって、人間と機械の仕事の領域も変わっていきます。
 
そんな時代に対応できる人を育てるには、どのようなキャリアサポートが必要でしょうか。さまざまな学生を見てきた経験から、中出は語ります。
「まずは、機械で代替できるような仕事ではなく、オリジナリティや創造性を突き詰めること。替えのきかない、いわばスペシャルな存在をめざすことでしょうね。学生と接して感じるのは〝正解主義〞の根強さです。誰かに与えられた一つの正解やゴールを設定し、これで合っているか、間違っていないかと常に周りを気にしてしまう。でも、クリエイターやスペシャリストと呼ばれる人たちは自分で答えを見つけているし、それも時どきで違ったり、状況によって変わったりする。答えにたどり着く道も一つじゃない。卒業生の話を聞く意味は、そういう歩みや考え方を知ることにもあると思います」

変化が激しく、不確実な時代。だからこそ、キャリア教育も学生の多様なニーズに応える引き出しと手数が必要です。そこに決まった正解はありません。わたしたちはこれからも、よりよいあり方を模索し続けていきます。

 
Pickup 1:クリエイティブ職をめざす実践的科目
本学では、クリエイティブ職をめざす学生向けの科目が充実し、実践的な指導を行っています。
正規科目の「クリエイティブの現場」では、エンターテインメントやコンテンツ業界の第一線で活躍するクリエイター、プロデューサーが企画発想法やブランディング、プロデュースの方法論を講義します。「ポートフォリオ演習」では、それぞれの業界に応じたポートフォリオのつくり方を徹底指導。デザイン会社やゲーム会社の社員による作品の講評会もあります。
課外講座では「大手出版社編集部マンガ講評会」。20誌以上のマンガ編集者たちが学生の作品に目を通し、助言します。
Pickup 2:就活が苦手な学生も親身にサポート
就職はしたいけど就活は苦手、という学生へのサポートも親身に行っています。
「まだまだ間に合う! 就職講座」は、4年生になっても動き出せない学生をエンパワーメントする内容。大学の外へ出るのが苦手な学生のために、学内で企業の説明会や研修を受けられる機会もつくっています。
また、時間が守れない、優先順位をつけられないといった発達障害特性に悩む学生が近年増えていることに対応したキャリアガイダンスや苦手克服講座も。新たに始まる「ソーシャルスキル・トレーニング」では、コミュニケーション技術などの基礎力アップを図ります。

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京都精華大学 広報グループ

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※取材いただく際は、事前に広報グループまでご連絡ください。

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