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「2021年度 京都精華大学・大学院 入学式」を挙行しました。

2021年4月1日(木)、「2021年度 京都精華大学・大学院入学式」を挙行しました。

今回は、新型コロナウィルス感染症拡大防止として、午前と午後の二部制で実施。
第一部はデザイン学部、マンガ学部、人間環境デザインプログラム、デザイン研究科、マンガ研究科の新入生、第二部は、国際文化学部、メディア表現学部、芸術学部、人文学研究科、芸術研究科の新入生を対象に執り行いました。
 
今年度は、学部1097名、大学院53名の計1150名が入学。
ウスビ・サコ学長は「ようこそ、京都精華大学へ。みなさんは本日をもって、世界のどこにいても本学の共同体の一員です。その自覚を持ち、人種、宗教、性的指向、社会的経済的背景の違いを認め合い、先輩、教職員とともに世界の変革を踏み出しましょう」と新入生に歓迎の言葉を述べました。
  • デザイン学部長 森原規行
  • メディア表現学部長 吉川昌孝
その後は各学部長が挨拶を行いました。各学部の学びの意義や、卒業までに取り組んでほしいことを語り、ともに学ぶことを楽しみにしていると温かなメッセージを送りました。
  • 午前の部・新入生代表 デザイン学部イラストコース 黒川亜美さん
  • 午後の部・新入生代表 国際文化学部グローバルスタディーズ学科 西田テオさん
新入生代表挨拶は、午前の部をデザイン学部イラストコースの黒川亜美さん、午後の部を国際文化学部グローバルスタディーズ学科の西田テオさんが務めました。
黒川さんは「だれかの感情に訴えかける絵を描きたい。壁にぶつかったときは新しく出会う仲間たちとともに乗り越えていきたい」と抱負を語り、西田さんは「この京都精華大学で、英語やフランス語などの語学や国際社会について全力をかけて学んでいきたい。みんなも様々な思いを抱えてここに来たと思う。一緒に頑張っていこう」と、ともに学ぶ同級生にエールを送りました。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから京都精華大学で出会う友人や教職員と、ともに学びあい、有意義で楽しい学生生活を過ごしてください。

「2021年度 京都精華大学・大学院 入学式」学長挨拶

Aw niche--Aw Bissilah--Aw Bora aw Kasso--Aw nana aw kasso (バンバラ語)。
京都精華大学、学長のウスビ・サコです。
 
新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
2021年度、京都精華大学は1097名の学部生、また53名の大学院生を新たに迎え入れました。
この1150名の仲間のうち、300名以上、つまり約3割がアジア、アメリカ、ヨーロッパなどの留学生です。
ここに集まってくれたみなさんはもちろん、日本への入国制限のためにいまだ国外にとどまっている方、国内にいてもさまざまな事情でこの会場に来られなかった方、そして保護者のみなさま、ご関係者のみなさま、すべての方に心よりお祝い申し上げます。
また、この入学式には、昨年度に合格したもののコロナ禍のために入国ができず、大学が入学延期を認めていた方々も出席されています。
 
みなさん、京都精華大学へようこそ。
Aw Bissilah-Awn Bekun (バンバラ語)
 
さて、振り返れば昨年はさまざまな出来事がありました。
新型コロナウイルスの感染拡大とそれが引き起こしたパニックは、みなさんの生活にも大きな影響を及ぼしたでしょう。ワクチンの開発とその接種に対する疑問や、東京オリンピックの延期とその後の論争。ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の世界的な広がり、そしてそのなかで実施されたアメリカ大統領選挙。ミャンマーでの軍事クーデターと、それに対する抵抗運動。私の出身国マリでは、イスラーム過激派や武装勢力との戦いの長期化や、軍隊中心の政権誕生などが起こりました。
これらの出来事は、これまで我々、つまり大人たちが形成してきた近代システムが立ち行かなくなってきたことを示しています。グローバル経済によって実現した地域間の相互依存関係の限界が明らかになったわけです。おそらく、2020年は世界の歴史に刻まれる年になるでしょう。
 
みなさんはいま、先が見えなくなった社会、混乱と分断の世界に身を置いています。しかし、大学という場所には、こうした状況だからこそ生きる学びがあります。不確実な状況を分析し、理解する力をつけるための機会をみなさんに与えることこそが、大学の役割です。そしてみなさんが入学する2021年度は、京都精華大学が未来へ向けたビジョン「2024SEIKA」として、リベラルアーツ、グローバル、表現の3つを軸にした教育改革を実行する、その最初の年にあたります。
きょう、この日から、国際文化学部、メディア表現学部、そして学部横断型の人間環境デザインプログラムがスタートします。また、芸術学部、デザイン学部、マンガ学部をふくめたすべての学部で基盤となる、新しい全学共通の学びが据えられています。
新しい全学共通の学びを通じて、みなさんは自立した一市民となるために必要な情報と知識を身につけることが期待されています。みなさんの手元にある建学理念に書かれているように、わたしたちの使命は、「新しい人類史の展開に対して責任を負い、世界に尽力する人間の形成」です。京都精華大学は表現で世界を変える人間の育成を目指しています。新入生のみなさんにも、「世界の変化に柔軟に適応できる知的なたくましさ」を身につけて、世界を変革する人間に成長してほしいと願っています。
 
近年、「Z世代」という言葉を耳にする機会が増えました。1990年代半ばから2000年代前半に生まれた世代、年齢で言えば現在15歳から24歳以下の若者であり、ここにいる多くのみなさんはまさに「Z世代」にあたります。さらに、この世代は世界人口の3分の1を占め、その大多数がアフリカとアジアに居住しています。世界の将来像を思い描くためには、教育現場に限らず、この世代を理解することを避けては通れません。
「Z世代」とそれまでの世代を分ける特徴として挙げられるのは、物心のついたときからインターネットや携帯電話などの通信環境がすでに普及していた、いわゆる「デジタルネイティブ」であることや、リーマンショックなどの経済危機を幼少期に経験し、金融不安に敏感になっていることです。また、「Z世代」の価値観の特徴として、「努力家」「人権と平等を重んじる」「リアルさとユニークさを個性とする」「YouTuberやSNSなどのインフルエンサーを信頼する」ことなどが挙げられています。
どうですか?自分にあてはまるでしょうか?
 
多くのレポートは、「Z世代」がソーシャルメディアをはじめ、インターネットでのコミュニケーションなどを得意とし、国境、人種、宗教、性的指向などを超えて、世界の課題の共有を得意とする傾向にあると指摘しています。現在、ミャンマーの軍事クーデターに抵抗し、民主主義の奪還を求めた命がけの抗議デモで、重要な役割を果たしているのもこの世代です。また、気候変動問題の誠実かつ即時的な改善を求め、運動と講演活動を行なっていることでよく知られているグレタ・トゥーンベリさんも、この世代の一員です。みなさんの世代は、世界各地で平和と社会の安定を求めて、独自の民主運動を始めているのです。
このように、「Z世代」の存在は世界的にとても重要視されています。日本はどうでしょうか?
 
実は日本の「Z世代」は、環境問題や社会問題などに対する熱量が、他の国や地域と比較して低めであるとの指摘があります。しかし原因として、そもそも日本では世代間の意思疎通が希薄であり、若者が意思決定プロセスに参画する機会や、社会に向けて自由に発言する機会が少なかったことも分析されています。そうした日本の特殊事情を踏まえつつ、とりわけ現在のコロナ禍のなかで、日本の大学はみなさんとどう向き合うべきなのか。
まずわたしは、残念ながら大人たちにはもう、理想的な未来をつくることができないと考えています。そのための想像力が、みなさんに追いつかないからです。みなさんのほうがはるかに柔軟で、可能性に満ちているのです。私たち大学教員は、みなさんに自分たちの経験と専門知識を情報として伝えます。しかし同時に、みなさんひとりひとりの視点や価値観を理解することも重要だと考えます。また、初代学長である岡本清一は、京都精華大学が世界を変革する人を育てるために、「学生、教員、職員がすべて人格的に平等であり、全員が大学の創造に参加する」ことをうたっています。みなさん自身が、大学をつくっていくメンバーの一員だということなのです。
 
大学のキャンパスは、パソコンやスマートフォンの画面のように、要求した情報を表示するだけの窓ではなく、一つの小さな世界です。そこでは、偶然の出会いが数多く待ち受けています。
ここに、昨年度、本学の人文学部客員教授の任期を終えられたフランス文学者の内田樹先生と行った対談の言葉を借ります。
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アカデミアとは本来、学生たちがふらふらできる場所のはずです。もののはずみで「そんな学問分野がこの世に存在するとは知らなかった科目」を履修し、図らずも学ぶ気がなかったことを学んでしまったという偶然性が、アカデミアの豊饒性と開放性を担保していたと思うんです。アカデミアの強みは「バイアクシデント(by accident=偶然)」な出会いを提供できることなんです
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大学キャンパスは学生が偶然に人や知識と出会い、何か思いがけないことが生起する場所でなければなりません。私は新入生のみなさんがこれからの数年間をかけて、自らの専門分野を極めるだけではなく、社会を再構築するための力を獲得することを期待します。
各自があらゆる出会いを通じて、私たち人間が再び自由になり、あらかじめ設定された必然から解放されるための方法を探ってほしいと考えています。京都精華大学の教育内容とその構造は、みなさんが新しい価値観を創造し、世界を変えていく力を身につけられるように構築しています。
 
本日、みなさんに「LOVE」というタイトルの冊子を配布しています。そこには「世界人権宣言」を日本語訳し、詩人の谷川俊太郎氏の詩のほか、教職員からみなさんにあてたメッセージが記載されています。是非、読んでみてください。
 
最後に、キューバ独裁政権を倒した革命家チェ・ゲバラの言葉をみなさんに贈ります。
彼の本名はエルネスト・ゲバラ(Ernesto Guevara)です。今から思えば、かつて私が通った中学校の教室には、みなさんもご存知の、あの有名なゲバラの肖像が壁に描かれていました。
 
1959年10月に大学生に向けて行なったスピーチのなかで、ゲバラは次のように述べました。
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大学は「象牙の塔」であってはならない。社会から遠く離れた、革命の実際的な成果から除外されたものであってはならない。そんな態度が続くのならば、大学は我々の社会に必要のない弁護士を社会に供給し続けるだろう
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別の場所で彼はこうも言っています。
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革命は熟せば自然と落ちる林檎ではない。あなた自身がそれを落とすのだ
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京都精華大学は「自由自治」の理念を掲げています。
しかし、この自由もまた、「自然と落ちる林檎」ではありません。みなさん自身が、自分の行動を通じて獲得していくものなのです。
 
 
京都精華大学を自らの人間形成の場として選択したみなさんは、本日をもって、世界のどこにいても本学の共同体の一員です。その自覚を持ち、人種、宗教、性的指向、社会的経済的背景の違いを認め合い、先輩、教職員とともに世界の変革を踏み出すことになります。
 
今日からみなさんの戦いが始まります。そして、人間社会がより良いものに変わるまでその戦いは続くのです。
 
みなさん、ようこそ京都精華大学へ。これからの大学生活を目一杯楽しんでください。
 
そして、ともに戦いましょう。
AWNICHE (バンバラ語)
 
2021年4月1日
ウスビ・サコ

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