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「2020年度卒業式・学位授与式」を挙行しました。

2021年3月20日(土)、「2020年度卒業式・学位授与式」を挙行しました。
今年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、卒業生と教職員のみで式典を執り行い、式典の模様をオンラインで配信しました。

今年度の卒業・修了生は、学部卒業生が549名、大学院修了生が61名です。
卒業・修了生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。
ウスビ・サコ学長
ウスビ・サコ学長は「対面という形で卒業式を実施できることを非常にうれしく思う。困難な一年間のなか、みなさんは試行錯誤を繰り返し、この卒業・修了の日に辿り着くことができた。卒業・修了発表展の作品や論文からは、1年間、様々な疑問に直面し、深く考えたことが表れていた。」と、この場を迎えられる喜びと、卒業生への賞賛、激励の言葉を述べました。
※ウスビ・サコ学長の学長挨拶全文は、本ページ末でご覧いただけます。
また、同窓会「木野会」会長の山田 隆様より祝辞、卒業生代表でマンガ学部アニメーションコースの三角天信さん、デザイン研究科修士課程のホウ ガテイさんより「卒業生の言葉」が述べられました。
「木野会」会長 山田 隆様
マンガ学部アニメーションコース 三角天信さん
デザイン研究科修士課程 ホウガテイさん
また、今年度退職される教員として、芸術学部映像専攻の伊奈新祐先生、マンガ学部ストーリーマンガコースのさそうあきら先生に、同窓会「木野会」より花束が贈呈されました。
あわせて開催された「京都精華大学展2021表彰式」では、学長賞に芸術学部テキスタイル専攻の鈴木大晴さん、マンガ学部キャラクターデザインコースの三浦麻乃さん、人文学部歴史専攻の中川あかねさん、理事長賞にデザイン学部デジタルクリエイションコースの山口駿さん、ポピュラーカルチャー学部ファッションコースの小山めぐみさん、マンガ研究科博士前期課程のリュウ ユウシさん、木野会賞にマンガ学部ストーリーマンガコースの有馬岳志さん、人文学部文学専攻の村田幸作さんがそれぞれ表彰されました。
その後は「2020年度 京都精華大学学長表彰」受賞者に、表彰状と副賞が送られました。「京都精華大学学長表彰」は、本学の教職員、学生および卒業生を対象に、学術、芸術、社会活動などを通して、京都精華大学の名誉を高め、本学の活性化につながる功績を修めた方や団体に、学長が表彰を行うものです。
2020年度は、第24回「WFWP女子留学生日本語弁論全国大会」で準優勝した芸術学部映像専攻4年生のラランブザツブ ナリアンザ ブルルニアイナさん、鞍馬山の台風による倒木の活用方法について提案・活動し、地域に貢献したデザイン学部建築学科の教員・学生による「鞍馬山倒木活用プロジェクト」のグループ、マンガ学部ストーリーマンガコース卒業生で、マンガ『極主夫道』作者のおおのこうすけさんが選出され、表彰状と副賞が送られました。

「2020年度卒業式・学位授与式」 学長式辞 全文

AW NI CHE, AW NI SEGUE, AW NI BARA(バンバラ語)
 
みなさん、ご卒業おめでとうございます。そして保護者の皆様、ご関係者の皆様、おめでとうございます。ひとまずは、この対面という形で卒業式を実施できることを非常にうれしく思います。この会場の様子は、来場できない学生のみなさんや保護者、ご関係の皆様に向けてオンライン配信をしております。つまり、この場にいない方々も、この雰囲気を共有しています。
 
さきほど私は母語のバンバラ語でも挨拶させていただきました。この挨拶には「ご苦労様でした」という意味が含まれています。つまり、おめでとう以上に、ここまで困難な道のりを一歩一歩進んでこられた、その努力と忍耐力を讃えたいということです。そして、みなさんを指導してこられた教職員の方々にも感謝の意を表したく思っています。ありがとう。
 
みなさんが卒業制作、卒業研究、修了研究に取り組みながら最後の学生生活を送った2020年度は、ある意味で、近代史上、最も印象に残る1年間でもありました。世界規模のパンデミックが日本のみならず世界各国に対して、これまで築きあげてきた枠組みを全て疑い、見直すよう強いた1年間でした。新型コロナウイルスの存在は、教育現場にも困難と同時に、大きなチャレンジも与えました。みなさんにとっては、当たり前に使ってきた施設が使えない。当たり前に行ってきたクラブ活動が中止になり、学業や学生生活の悩みを相談してきた教職員や友人にも会えない。留学生や下宿生の場合は、実家の家族とさえ自由に会えませんでした。大学生という身分そのものがスティグマとなり、社会的排除の対象となりました。このような環境のなかで、皆さんは試行錯誤を繰り返し、様々な困難を乗り越えて卒業・修了にたどり着きました。
 
とりわけ最初の半年間は、全ての授業がオンラインとなりました。慣れない環境下で研究や制作を進めなければならない事態に対して、みなさんは疑念や憤りを感じたはずです。学校だけではなく、自分の身の周りの全てのことに不信感を抱かれたとしても当然だと思います。
 
社会において、これまでの常識、価値観、関係性が全て疑わしくなるなかで、京都精華大学が大切にしてきた「学生と教員の距離の近さ」すら問題視されました。エドワード・ホールという人類学者の著書『隠れた次元』では距離のことが語られています。長年に渡って様々な地域や文化圏における空間と人のコミュニケーションを調査し、それらのデータを分析した結果、彼は「各個人に個体距離があり、各社会に社会的・文化的距離がある」と述べています。それは体系的に作られた物理的距離とは別に、それぞれの社会・文化が長年の生活の積み重ねのなかで生み出し、各個人が無意識のうちに自然と従ってきた身体感覚です。まさに、この社会的距離「ソーシャルディスタンス」が、新型コロナウイルス感染症拡大の中で最も問題視されました。
 
「新型コロナウイルス」への決定的な有効策が見つからないなか、専門家たちは人々が社会的距離をとることを盛んに言い立てました。近くの家族、友人や隣人といった親密な仲だからこそ、相手の身を案じて距離を置かねばならないというパラドックスが課された。そこから生じた多大な心理的ストレスを乗り越えて、みなさんは今日を迎えることができたわけです。
 
14世紀のペストの流行については、社会的分断、職業的分断、人種的・民族的分断といった原因が議論され、宗教や神様の存在すら疑う者もいました。他方でアルベール・カミュは著書『ペスト』の中で当時のアルジェリアの人々の行動を次のように描写しております。「外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に『悪』と闘う市民たちの姿…、人間性を蝕む『不条理』と直面した時に示される人間の諸相…」。そこには、新型コロナウイルス後の社会を再構築するための指針、これからのニューノーマルを生きる指針が示されていると思います。
 
ある雑誌のなかで、私はニューノーマルを次のように解説しました。
——これまでの消費中心の社会では、いかにして物を安く早く手に入れるかという、便利さだけが問われがちだった。しかしコロナ禍による不便さを味わう中でも、私たちは人間らしさや自由、新しい価値観を見出す機会はあったはずだ。そこで「ニューノーマル」という言葉がよく使われるようになったが、この言葉には少し注意しなければならないところがある。誰かが「ニューノーマル」と言うとき、その人はどういう生活を基準にしているかを考えた方がよさそうだ。そこではたいていコロナ直前の生活が基準になっているが、はたしてそれは「ノーマル」だったと言えるのか——。むしろ、コロナ禍をして、私の原点はなんだろう、どこにあるんだろうと、原点を問い直す重要な機会とするべきだ。多くの人々が原点を問い直すなかで、原点は人によって違うということに気づくことができる。その気づきが多様性をサポートするようになることが大切ではないか。便利で画一的な社会では既存の「当たり前」を共通の価値観にできたかもしれないが、根源にある各個人の原点はバラバラで、一つ一つ違っているほうが当たり前だったのだ——。
 
今年の卒業・修了発表展、「京都精華大学展2021」を観たとき、多くの作品に感銘を受けました。できることであれば全員に学長賞を贈りたかったくらいです。個人的な感想かもしれませんが、京都精華大学の精神がみなさんの作品に表れていました。答えの見えない世の中、不確定な社会的状況で大事なのは、論理的回答だけではなく、そもそも「問いを立てられる力」です。みなさんの数多くの作品には、6ヶ月のあいだ十分な活動ができず、様々な疑問に直面し、深く考えたことが表れていました。言葉をかわした何名かの学生からは、「あの半年間は大変だったが、見えてきたものもあった」「半年の間に自分の作風も変わった」「人間や周りの大切さが見えてきた」「なんとなく人間愛がわかってきた」「大学のキャンパスってこんなに大事な場所だったんだと初めて気づいた」といった声を聞きました。京都精華大学では、みなさんに答えだけを教える教育はしてきませんでしたし、これからもするつもりはありません。京都精華大学が重視するのは、物事の構造を見抜き、そこから疑問を生み出す能力です。卒業・修了発表展では、その能力がみなさんに備わっているのを見せていただきました。
 
さて、本日をもって、みなさんは京都精華大学を卒業・修了し、明日から社会人となります。これからみなさんが身を置く社会は決して単純なものではなく、必ずしも幸せをもたらしてくれるものではありません。しかし、みなさんはこの大学の理念を体現し、身体化しています。この理念を見失うことなく、日本や世界の不安に立ち向かい、この社会をより良いものに変革していってくれると確信しています。
 
京都精華大学「VISION 2024SEIKA」では、表現、リベラルアーツ、グローバルを柱とし、「表現で世界を変える」というスローガンが掲げられています。みなさんの進路は会社員、公務員、作家、クリエイター、フリーター、ニート、大学院生などさまざまです。京都精華大学はいわゆる就職予備校ではありません。入学時から行われたキャリア教育では「好きを仕事にしてください」と教えられてきたはずです。京都精華大学の初代学長・岡本清一は、「大学は学問と教育と深い友情とを発見する場所である」と述べています。大学のディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーの双方で、「友情」が重要な柱として定められています。ともに文化・芸術を学び、深い友情を培いながら、みなさんは世界をより良い居場所にするために協働できる人間へと成長しました。大学という共同体の構成員としての自覚のもと、各自が明日への成長のビジョンを、友人たちとともに創り上げてきたことと信じています。
 
みなさんを不安にさせたこの状況を作った大人として、私自身も責任を感じています。「私を信じてください」と言っても、みなさんは信じにくいでしょう。なぜなら、私がその一員となってこれまで構築してきた世界は「嘘」だったかもしれないし、みなさんを幸せにできるという保証もないからです。もしかしたら、ここで私が語っている全ての言葉は「迷信」かも知れません。
そこでみなさんには、最後に「迷信(Superstition)」をテーマにしたスティーヴィー・ワンダーの歌を贈りたいと思います。

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Superstition
Very superstitious
Wash your face and hands
Rid me of the problem
Do all that you can
Keep me in a daydream
Keep me going strong
You don't want to save me
Sad is my song
When you believe in things
That you don't understand
Then you suffer
Superstition ain't the way

作詞作曲:スティーヴィー・ワンダー (Stevie Wonder)
『Talking Book』 (1972, Tamla label for Motown Records)より
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新型コロナウイルス感染症の終息は「迷信」かも知れません。
 
Aw ni baara ! Aw ni seguèn!
K’an bèn sòòni ! Ka nyògònye nògòya !
以上、私の祝辞とさせていただきます。
ご卒業おめでとうございます。
 
2021年3月
京都精華大学・学長 ウスビ・サコ

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